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学会長期テーマプロジェクト 2021年度採択研究テーマ

2021年 6 月にホームページおよびメールマガジンにて公募した本会「学会長期テーマ第1期公募」に採択された
各研究課題の概要をご紹介いたします。
当時の募集要項(2021年6月30日締切)はこちらより閲覧可能です。(現在は募集しておりません)

なお,各課題の研究成果は本会秋季大会にて報告いただきました。

2022年度春季大会【企画講演】 資源・素材学会長期テーマプロジェクト研究紹介(2022年春)

資源・素材2022(福岡)【企画講演】資源・素材学会長期テーマプロジェクト研究紹介

資源・素材2023(松山)【企画講演】総括:学会長期テーマプロジェクト


課題,概要

“銅、鉛、亜鉛を中心に持続可能な社会を支える2040年頃(20年後)の非鉄産業のあるべき姿”を考える。

プロジェクト概要:

資源・素材産業の新しい展開及び発展と資源・素材学会 (MMIJ)の活性化を目的として,学会長期テーマについての研究プロジェクト (PJ)を立ち上げます。20 年後には,資源循環型社会において脱炭素社会が目指されており,水素などの再生可能エネルギーの重要性が高まるものと予想されます。この背景を踏まえた上で,低環境負荷での非鉄ベースメタル(銅,鉛,亜鉛)を中心とした新しい資源開発,製錬・精錬及びリサイクルプロセスの実現と,それらを基礎とした資源・素材産業の発展を目指します。
今後もさらに高まるグローバル競争の中で,日本の資源・素材産業の技術力をより高めて,人材を育成しながら,MMIJ のメンバーが一丸となって,SDGs へ貢献することが必要不可欠です。本 PJ では,資源・素材分野の新しい課題を学側に落とし込み,基礎研究の重要性を再認識するとともに,各自の方法論を持ち込んで,次世代資源・素材学の礎を築くことを目標としたいと考えています。
具体的な研究課題には,低品位非鉄鉱山の資源開発及び都市鉱山の高効率リサイクルプロセス,高密度・高速度場での新しい乾式・湿式製錬・精錬技術,AI 技術及び再生可能エネルギーの各関連分野での活用,長い歴史を有する日本独自の資源・素材関連技術の振り返りと新しい展開(温故知新)などが挙げられます。将来的には,従来にはないコンパクトな都市型製錬所への移行,新しい資源・素材産業技術の海外輸出・技術供与など,より積極的な方向性を MMIJ ALL JAPANで目指しましょう。
本 PJ では,資源・素材産業の発展に資する萌芽的及び基礎的研究を支援し,関連分野の若手人材の育成及び科学技術の展開へ貢献したいと考えています。今回は,次世代のベースメタル資源開発・リサイクル・製錬プロセス技術に関連した以下の 2 領域を設定し,それぞれの領域についてリーダーとサブリーダーの立案計画を基に,公募により研究テーマの計画立案を募集します。若手研究者の皆様には,奮ってご応募頂きますようご案内申し上げます。なお申し添えますが,本 PJ は一般財団法人日本鉱業振興会様から助成金をご支援いただいております。

一般社団法人資源・素材学会副会長
総括リーダー 武部博倫(愛媛大学 教授)

 


領域 1:「21 世紀後半を見据えた資源・素材学の挑戦」

領域 1 リーダー:柴山 敦(秋田大学 教授) サブリーダー :島田英樹(九州大学 教授)

資源価格の高騰やレアメタルパニック,SDGs に代表されるように,21 世紀に入ってからの資源・素材分野は激動の波にもまれてきました。資源の重要性は社会的に認知されるようになりましたが,資源開発には負のイメージがつきまとう上,要(かなめ)であるはずの素材産業の認知度は決して高くありません。最近は鉱石等の劣質化が進み,温暖化をはじめとする環境問題が地球規模で深刻化するなど,資源・素材分野が向き合うべき課題は日に日に重要性を増してきました。また,AI を中心に新しい技術領域が誕生し,資源・素材学会として 21 世紀後半を見据えた将来像を描いていくことが必要になっているのも事実です。このような観点に立ち,本領域では挑戦的で,斬新かつ革新性を持った研究テーマを広く公募し,将来の資源素材分野を牽引する研究テーマを支援します。
対象:国内産業の基幹であるベースメタル(銅 ・ 鉛 ・ 亜鉛)を対象とした資源素材分野
キーワードおよび関連領域〔これに限定するものではないが研究内容として重視する〕:
持続可能資源,資源循環・リサイクル,素材プロセシング,新素材,地下深部資源・採掘,AI 掘削技術,深海底・宇宙資源,CO 2 削減・固定・利用,再生可能エネルギー,資源開発後の環境修復,坑廃水を発生させない資源開発など

領域 1 採択研究テーマ紹介

研究代表者

東北大学 里見知昭

研究テーマ名

鉱石採掘フルオートメーションの実現に向けたバケット掘削による発破起砕鉱石の粒度推定法の開発

研究の目的

鉱石の採掘では,岩盤に穿孔し火薬を装填して発破する。その発破起砕された鉱石(以下,砕石)はパワーショベルですくい取られ,ダンプトラックで運搬される。この採掘システムにおいて,穿孔・すくい取り・運搬の自動化は実現されている。しかし,砕石の粒度はすくい取りと運搬の作業コストに影響を及ぼすため,砕石の粒度評価は重要であるものの,その自動化は未だ実現されていない。よって,砕石粒度評価の自動化が可能になれば,採鉱フルオートメーションの実現につながる。しかし,これまでの経験的手法や画像解析手法では,現場の岩盤強度に応じた調整パラメータが必要であったり,砕石が堆積した内部の粒度を把握することが困難といった問題があった。そこで本研究では,従来法に代わる新しい砕石の粒度推定法を開発することを目的とし,どの採鉱現場でも導入されているパワーショベルで砕石を掘削しながら砕石の粒度を推定する技術開発を掘削実験を通じて行う。

研究代表者

産業技術総合研究所 綱澤有輝

研究テーマ名

微小域元素組成に基づく鉱物の存在形態および単体分離特性の評価技術の開発

研究の目的

鉱床の新規開発可能性や鉱山開発の継続可否を判断するためには,鉱石のバルク品位を分析するだけでなく,不純物となり得るヒ素などの忌避元素や副産物となり得る微量の銀などの有用元素などの微量成分が鉱石中にどのような存在しているかを詳細に評価することが重要である。また,原料鉱石に対する各種選鉱プロセスの最適設計においても,単体分離等の鉱石中の鉱物の存在形態を,主成分だけでなく微量成分も含めて評価・分析することは必要不可欠である。本研究では,レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析計(LA-ICP-MS)を用いた微小域元素分析に基づく鉱石中の主成分・微量成分の存在形態の評価手法の開発し,主成分に加え微量成分も考慮した鉱物の単体分離度を評価する技術開発を目的とする。また,これらの単体分離特性を一般化する指標を得るための粉砕手法の選択や粉砕機の設計のためのシミュレーションの構築を目的とする。

研究代表者

東京海洋大学 淵田茂司

研究テーマ名

海洋の鉄酸化細菌を用いた有価硫化鉱物と黄鉄鉱の海水浮遊選別法の開発

研究の目的

鉱石の低品位化,難処理化が見込まれる中,銅,亜鉛,鉛などのベースメタルの持続的かつ安定的な供
給を達成するためには,高効率かつ環境負荷の小さい選鉱技術を選択することが望まれる。現在,国内で用いられている浮選技術は,主に過去の研究結果(~1980s)に基づいて開発されたものであり,経験則による要素が強い。とくに,脈石鉱物である黄鉄鉱の有価鉱物への混合を抑制するためには消石灰や生石灰を加えて pH を 10 以上に調整する必要がある。本研究では海洋に生息する鉄酸化細菌を浮選前処理や操業段階で利用することで,微生物による黄鉄鉱表面の酸化促進,菌体や代謝物の選択的吸着等の反応により,アルカリ剤を添加しなくても海水浮選によって黄鉄鉱の抑制および有価硫化鉱物の回収効率を向上できるかどうか検討する。さらに,鉄酸化細菌の無機炭素固定能力を活用し,二酸化炭素ガス吹込みによる温室効果ガス削減技術としての利用可能性についても検討する。

研究代表者

京都大学 久保大樹

研究テーマ名

リモートセンシングと機械学習の応用による深海底資源の探査と評価の自動化・精緻化への挑戦

研究の目的

海洋国である日本の深海底には,豊富な金属やエネルギー資源の胚胎が知られており,その早期開発が
望まれている。しかし,海底を対象とした資源探査はスケジュールや設備が限られており,陸域と比較して調査コストが大きく,かつ得られるデータ量が圧倒的に少ないために,資源分布の詳細なイメージングは困難である。そこで本研究では,リモートセンシング技術の応用と AI による機械学習・画像解析などを併用した資源探査技術の「自動化と迅速化」により,この課題の解決を図る。具体的には,プローブ型測定装置や反射スペクトル分析・画像の特徴抽出によって岩石サンプルの特性を迅速に取得し,これをトレーニングデータとした機械学習によって鉱床の分布形態の推定と資源量評価を正確に行える技術の開発を試みる。将来的には,水中型ドローンなどを駆使した自動化によるデータ取得量と精度の増加,および低コスト化へと展開することも期待できる。

 

 


領域 2:「高密度/高速度反応場の制御による革新的非鉄製錬プロセスの基礎」

領域 2 リーダー:柴田悦郎(東北大学 教授) サブリーダー :邑瀬邦明(京都大学 教授)

国内資源・素材産業(銅,鉛,亜鉛の非鉄製錬業)は,地金の需給状況等の国際的な変化に対応する中で,エネルギー利用の効率化や環境負荷低減への対応も社会的に求められています。将来的な国内非鉄製錬業の在り方を考えた場合,今後も引き続き重厚長大型の製精錬設備の更新と効率化のみで持続的な維持・発展を目指すだけでなく,革新的な技術開発とその新規設備導入によるコンパクトでかつ高効率の都市型製錬所への移行の道も探る必要があります。
本領域では,溶錬(酸化,還元)ならびに電解製錬(電解精製,電解採取)プロセスに,高密度/高速度反応場を設計・導入することで抜本的な高効率化を目指すための基礎研究(萌芽的研究)を公募します。研究提案の目安として,関係する技術背景を以下に示します。
溶錬では,酸素等のガス,精鉱(硫化鉱,酸化鉱など),溶湯(スラグ,マットなど)の気固液混相で反応が進みます。反応場において,反応物の高密度化,反応界面積の増大,物質移動の促進を実現できれば,単位容積あたりの反応速度を大幅に促進することが可能となります。銅溶錬を例にとれば,フラッシュ反応における粒子衝突頻度の増大や,バススメルティングでの酸素や精鉱の高密度・高速度吹き込みなどが考えられます。
電解製錬では電極/電解液の 2 次元界面で反応が進みます。電解槽構造や電極形状,電解液の流動,電解液の成分を従来の枠組みにとらわれずに再設計することで,電解の高密度・高速化が実現できると期待されます。広い電極面積を実現する 3 次元構造電極の採用や,強制攪拌をもたらす回転電極系の活用などが例として考えられます。
なお,本公募で求める研究提案は基礎研究(萌芽的研究)であり,工業規模へとスケールアップする際に想定される種々の問題について,深く考慮する必要はありません。たとえば,現行の溶錬炉体や電解槽の構造を抜本的に変えることにつながる提案も歓迎します。また,研究室規模での溶錬実験の困難さを鑑み,具体的アイデアをもとにした数値シミュレーションやコールドモデル実験のみの提案も対象とします。電解製錬においても,具体的アイデアの検証のための小型実験や数値シミュレーションが主体の研究提案を対象とします。

領域 2 採択研究テーマ紹介

研究代表者

東北大学 夏井俊悟

研究テーマ名

高速度イメージングと Deep Learning 支援による銅マット – スラグ形成場マルチフィジックスの開拓

研究の目的

硫化物銅精鉱の気流中での燃焼,溶融マット(Cu 2 S-FeS 系融体)生成および脈石等によるスラグ(FeO x -SiO 2系酸化物融体)形成現象を従来よりも小さな時間スケールで理解することによって,自溶炉における「真に最適な銅精鉱燃焼場とは何か?」の問いに挑む。低品位銅精鉱の熔錬処理量の増大,さらには銅精鉱燃焼反応のエネルギー効率向上に有効な手段を模索する新たなスキーム開発を目的とする。実銅精鉱を対象とした懸垂燃焼法において,極細熱電対による燃焼時の小塊試料温度の非定常測定,同時に高速度撮影による詳細
な外観観察を実行する。さらに,反応を伴う複雑な分散融体のサブミリ秒 / サブミリメートルスケールでの
挙動を対象として,得られた画像の時系列データを Deep Learning を用いてパターン認識することで適切な
推論を行い,燃焼形態の幾何的特徴と組成など化学的因子との関係の定量化を試みる。

研究代表者

愛媛大学 佐々木秀顕

研究テーマ名

銅電解中の物質移動を促進するアノード形状と流れ場のデザイン

研究の目的

エネルギー利用の効率化や環境負荷低減への対応が社会的に求められている状況をふまえて将来的な国内非鉄製錬業の在り方を考えると,革新的な技術開発と新規設備導入によりコンパクトかつ高効率の都市型製錬所へ移行する道も探る必要がある。本研究では電解精製プロセスに高密度かつ高速度の反応場を導入することで抜本的な高効率化を目指すための萌芽的研究を行う。電解精製では電極と電解液が接する二次元界面で反応が進むため,広い面積を有する三次元立体構造電極の採用が有効である。また,強制攪拌による電解液の流動を利用することで電極反応の高速度化が可能となる。これらの視点を基に従来の枠組みにとらわれずに電極形状および電解槽構造を再設計することで,電解の高密度化・高速化が実現すると期待できる。現行の電解槽の構造を抜本的に変えることにつながる提案にむけ,具体的アイデアの検証を目的とした大学ラボスケールの小型電解装置による実験や数値シミュレーションを主体とした基礎研究を行う。

研究代表者

愛媛大学 西岡宣泰

研究テーマ名

 高密度 / 高速反応場を実現する模擬精鉱バーナーによる銅精鉱酸化反応の発生頻度の増大およびマグネタイト固相の生成を抑制させる手法の確立およびその原理の解明

研究の目的

通信回路や電力供給に必要なベースメタルである銅は,IT 化や電気自動車の製造拡大に伴い,世界的な需要が拡大し続けている。しかし,銅の大量生産を背景として,採掘される銅鉱石の銅品位が低下している。低品位の銅精鉱から大量の銅を生産し続けるためには,効率的なエネルギー利用や環境負荷を考慮した新しい製錬技術が求められる。
本研究では,従来にない新しい都市型製錬所の可能性を模索するために,銅精鉱の高密度・高速反応場に必要な銅精鉱や流入ガスの条件を明らかにし,高効率な酸化反応の原理を解明することおよび銅精鉱の最適な溶錬条件を提案することを目的とする。まず,溶錬工程で広く使用されている自溶炉の精鉱バーナーをラボスケールで実現する。次に,高温酸素流入下における銅精鉱と珪石の衝突反応を高速度カメラで観察し,精鉱の組成および流入ガスの温度,流速,酸素濃度が粒子の衝突頻度や空間分布に及ぼす影響を明らかにして,その原理を解明する。そして,得られた知見に基づき,より高効率な酸化反応を促進するために,銅精鉱の投入口や加熱方法,酸素供給方法を変更した新型装置を試作し,銅精鉱を高効率で反応させる手法を確立する。