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学会長期テーマプロジェクト(PJ)第2期 2024年度採択研究テーマ

去る2023年11月20日(月)~2024年1月21日(日)に本会Webサイトならびにメールマガジンにて公募いたしました「資源・素材学会 学会長期テーマプロジェクト第2期」採択研究課題の概要をご紹介いたします。
当時の募集要項(2024年1月21日締切)はこちらより閲覧可能です。(現在は募集しておりません)


課題,概要

“持続可能な社会の発展を支える20年後の資源・素材分野での実用化技術”を究める。

プロジェクト概要:

資源・素材産業の新しい展開および発展と資源・素材学会の活性化を目的として,学会長期テーマの研究プロジェクト(PJ)が2021 年に立ち上がりました。このPJ は若手研究者をリーダーとする3 年間の研究であり,資源・素材分野の画期的な手法や技術の開発によって,20 年後の低炭素社会,資源循環型社会,および持続可能な社会の発展に大きく貢献することを目指します。PJ では既存の枠にとらわれない自由な発想で3 年間の基礎研究を行い,手法・技術開発に繋がる成果を出すことが必要となります。第1 期PJ では「低環境負荷での非鉄ベースメタル(銅,鉛,亜鉛)を中心とした新しい資源開発,製錬およびリサイクルプロセスの実現と,それらを基礎とした資源・素材産業の発展」を目標とし,7 件の課題が採択されました。2023 年度末で第1 期が終了しましたが,いずれも順調に研究が発展し,当初の目標に沿った成果が得られました。

第1 期PJ の概要に「今後もさらに高まるグローバル競争の中で,日本の資源・素材産業の技術力をより高めて,人材を育成しながら,MMIJ のメンバーが一丸となって,SDGs へ貢献することが必要不可欠です。本PJ では,資源・素材分野の新しい課題を学側に落とし込み,基礎研究の重要性を再認識するとともに,各自の方法論を持ち込んで,次世代資源・素材学の礎を築くことを目標とします。」とありましたが,第2 期PJ でもこの方針を継続します。ただし,第1期では「“銅,鉛,亜鉛を中心に持続可能な社会を支える2040 年頃(20 年後)の非鉄産業のあるべき姿”を考える」と非鉄産業への貢献を中心とした課題でしたが,第2 期では資源・素材産業全般へと対象を拡げ,「“持続可能な社会の発展を支える20 年後の資源・素材分野での実用化技術”を究める」をテーマとしています。

持続可能な社会の発展のためには資源と素材は欠かせず,今後どのように資源を確保し,効率的に利用でき,高機能で低炭素の素材を生み出せるかに大いに依存します。しかし,有限な金属・非金属・エネルギー資源の需要は急増し,今後も需要は増加することが見込まれています。一方で鉱石品位の低下や鉱床開発深度の増加,これに伴うコストとリスクの増加,資源価格の高騰などの問題も顕在化し,新規鉱床の発見も難しくなっています。資源探査の対象として海底の重要性もますます増加し,早期の開発実現も望まれます。さらに,資源開発,製錬,リサイクルの工程では地球環境との調和,低炭素化が一層求められます。これらに対して,急速に進展しているAI 技術,IT 技術,バイオ技術,無人化操作技術,あるいは宇宙探査技術なども資源・素材分野でさらに活用することも有効と考えられます。このような背景の下,第2 期では20 年後に実用化され,持続可能な社会の発展を支える資源・素材分野での技術に関する研究提案を募集しました。

本PJ では,資源・素材産業の発展に資する萌芽的および基礎的研究を支援し,関連分野の若手人材の育成および科学技術の展開への貢献を目指します。第2 期ではMMIJの部門委員会グループに合わせ,「地球・資源」,「プロセス・素材」,「環境・リサイクリング」の3 領域を設定し,各領域に該当する研究提案を募集しました。厳正なる書類審査と面接審査の結果,以下の7 件の課題が採択されました。それぞれの課題の研究発展と成果を大いに期待します。それとともに,本PJ を通し,新しい資源・素材産業技術の海外輸出・技術供与,資源の安定供給,新しい資源の利用などで日本の未来を支えるMMIJ でありますように,学会がさらに活性化,発展しますことを願っています。なお,一般財団法人日本鉱業振興会様には助成金で本PJ をご支援いただいておりますことに深く感謝申し上げます。

2024 年4 月25 日
総括リーダー 小池 克明(京都大学工学研究科 教授)

 


領域1「地球・資源」

領域1 リーダー:島田英樹(九州大学 教授)

資源開発技術においては,カーボンニュートラルや温室効果ガス排出削減目標の達成に向けた取組を行うための脱炭素社会の実現を目指し,様々な取組を実施する必要があります。また,わが国は,エネルギーの供給体制が脆弱であり,エネルギー安全保障上の課題を抱えています。持続可能な社会の発展のためには,資源・素材の安定したサプライチェーンの確保が必要不可欠であり,今後どのように資源を確保し,効率的に利用でき,高機能で低炭素の素材を生み出せるかに大いに依存します。このような資源の安定的な確保という観点から,本領域では21 世紀後半を見据えた将来像を描くために必要な,資源探査ならびに資源開発技術を牽引する研究テーマを支援します。

-領域1 採択研究テーマ概要-

研究テーマ名

地熱貯留層の監視を目的とした地震波と能動弾性波による広域モニタリング

研究代表者

京都大学 吉光 奈奈

研究概要

豊富な地熱資源を持つ日本において地熱発電が発展すれば,CO2 削減や輸入化石燃料への依存度低減に寄与すると期待される。地熱貯留層と呼ばれる熱水が溜まった地下領域を十分に活用するためには,含まれる熱水量の変動と安定性,地中に分布する亀裂の時空間変化,微小地震の発生状況等を常に把握し続ける必要がある。本研究では,将来的な熱水分布や亀裂量監視のための常時モニタリングを目指し,弾性波を用いた能動的・受動的なフィールドモニタリング試験を実施する。このような弾性波を用いたフィールドモニタリングは過去にも試みられてきたが,記録装置や送振装置ともに進化した現代の技術を組み合わせ,実験室における波形観測と,実フィールドにおける波形観測をインタラクトさせながら,弾性波モニタリングの可能性と限界を評価する。さらに,得られた知見をもとにして,地温が高いという特殊かつ不安定な環境で有効に働く機器や手法の開発も検討する。

研究テーマ名

低炭素社会の実現に向けた未利用地下資源からの水素生成と開発跡地への二酸化炭素の地下貯留

研究代表者

九州大学 濵中 晃弘

研究概要

世界の主要なエネルギー源の一つとして利用されている石炭は化石燃料の中でも燃焼時の二酸化炭素排出量が多いため,環境への影響が大きい資源であると認識される。しかしながら,それらを地下で水素などのガスに転換し(石炭地下ガス化:UCG),ガスとして回収することで,環境負荷の小さい資源として有効利用が可能になる。また,既往の炭鉱開発により開発された採掘跡地は採炭の影響により多数のき裂および空隙が存在していることを考慮すれば,そのような場所に二酸化炭素を炭酸塩化による鉱物化を促進することで安全に貯留することにより,地球温暖化ガス排出の削減効果も期待され,CO2 フリー水素(ブルー水素)の生成にも貢献する。本研究は,UCG による水素生成と開発跡地への二酸化炭素地下貯留による,未採掘のまま地下に取りの残された石炭の環境負荷の小さい利用法を検討する。

 

 


領域2「プロセス・素材」

領域2 リーダー:柴田悦郎(東北大学 教授)/サブリーダー:邑瀬邦明(京都大学 教授)

 第1 期では非鉄製錬技術開発へのアプローチとして,領域2 において「高密度/高速度反応場の制御による革新的非鉄製錬プロセスの基礎」と銘打ち,研究対象を具体的に限定して課題を募集しました。その結果,銅精鉱のフラッシュ反応ならびに新規的な銅電解精製技術に関した課題が採択・遂行され,その結果,基礎研究としてのみならず銅製錬現場においても貴重な知見となる成果を挙げることが出来ました。また採択課題を遂行した若手研究者は,今後,非鉄製錬分野の代表的な研究者として長く活躍が期待される人物として産学ともに認識されました。今回の第2 期の領域2「プロセス・素材」においては,製錬技術に対象を限定せずに,機能性材料も含めたプロセス技術全体に募集を広げています。その結果,一件は銅産業における重要技術案件である機能性銅粒子の創成に関する課題を採択し,もう一件は製錬技術に関する課題として,貴金属の新規的な製錬・リサイクル技術開発に関連する課題を採択しています。両課題とも,研究の進展により非鉄産業の発展に大きく資する研究と期待され,また,研究を遂行する採択者も今後長く資源・素材学会をベースとした活発な研究活動が期待される研究者です。

-領域2 採択研究テーマ概要-

研究テーマ名

銅結晶異方成長の電気化学解析と精密制御による高アスペクト比銅ナノワイヤの創出

研究代表者

東北大学 横山 俊

研究概要

情報端末などのディスプレイには透明導電膜として酸化インジウムスズ(ITO)が幅広く用いられている。ITO は高い光透過性,導電性,安定性をもつ一方で,インジウムの希少性から情報化社会が進む中で枯渇が懸念され,ITO と同様の性能を持ちさらに資源的な制約の少ない代替材料の探索が急務である。これまでに,低環境負荷な液相還元法を用いて,資源制約の少ない銅のナノワイヤを銅結晶を異方的に成長させて合成し,透明導電膜を形成してきた。ナノワイヤ透明導電膜の性能はナノワイヤのアスペクト比(長さ/ 直径)に起因して変化するが,厳密な異方成長の制御ができずナノワイヤは低アスペクトとなり,性能が低いのが現状であった。異方成長はナノワイヤの側面に界面活性剤が吸着し,端部に銅が優先的に析出して達成されるが,この界面活性剤の吸着と端部への優先析出は経験的な制御のみ行われており,最適制御が行われていない。そこで,本研究では銅結晶の異方成長について電気化学的に定量解析することで,最適な吸着剤や反応条件を見出し,高アスペクト比銅ナノワイヤの低環境負荷合成を試みる。さらに得られた銅ナノワイヤの性能(光透過率・導電性)を評価し,ITO 代替材料としての可能性を評価する。

研究テーマ名

金属化合物系高温ガス相をその場でみる技術のリバイバル

研究代表者

九州大学 谷ノ内  勇樹

研究概要

20 年後やさらにその先の未来において,抽出冶金プロセス(製錬やリサイクル)が対応する原料は,現状の処理物と類似のモノであったとしても低品位化・難処理化しているのは間違いない。また,新たなハイテク製品の普及によって,従来とは全く異なる処理原料が生じる可能性も高い。したがって,抽出冶金プロセスをより深く理解するための分析技術を獲得し,深化しておくことが今こそ重要であると考える。本研究では分析対象として,乾式プロセスで重要な要素となる金属化合物系高温ガス相を取り上げる。1960 ~ 1980 年代にかけて行われていた金属化合物ガスの高温その場分析技術をリバイバルし,抽出冶金プロセスの理解/制御に対する有用性や適応限界を明らかとする。本研究を通じて,「気相中に分配された各種金属元素が高温その場においてどのような状態にあるか?」という学術的問いに答えるための基盤を構築していく。

 


領域3「環境・リサイクリング」

領域3 リーダー:柴山 敦(秋田大学 教授)

 第2 期の学会長期テーマが始まりました。領域3 では「環境・リサイクリング」を主題に,3 つのテーマがスタートします。いずれも興味深く,電解プロセスの設計・解析,省エネ型粉砕手法への展開,新たなリサイクル技術の創出などが期待されるテーマです。技術の刷新,変革を目指した新たなアプローチによる研究といえます。
ところで我々は,21 世紀後半に向け資源・素材技術を高度化するとともに,萌芽的で挑戦的な研究に取り組む必要があります。天然資源は低品位化や難処理化が進み,資源循環で見ると,リサイクルの質・量・技術を上げていくことが必要になるはずです。地球温暖化対策のように環境に調和した技術が求められ,資源の安定供給を実現しなければなりません。限られた資源を最大限活用し,低炭素社会に貢献していくことが資源・素材学会の使命だと言えるのではないでしょうか。今回の学会長期テーマを通じ,将来につながる技術が芽生え,社会実装までの道筋が描けるような研究が行われることに期待しています。

-領域3 採択研究テーマ概要-

研究テーマ名

電解液流れ場の可視化に基づく電解プロセス設計

研究代表者

東北大学 安達 謙

研究概要

銅をはじめとする非鉄金属の湿式電解工程において,電極間を満たす電解液の挙動は,電気銅の電析平滑性やアノードの不動態化現象と密接に関わる。電解液の観察やシミュレーションについては従来から関心を集めてきたが,電解プロセスのさらなる高度化には,流体解析に基づくプロセス設計が不可欠である。本研究では,比較的新しい流体解析手法を用いて電解液流れ場の可視化をキーワードとするテーマに取り組む。新たな流体観察法として,近年開発されたBOS 法(背景指向型シュリーレン法)を電解液の自然対流の観察に初めて活用する。セットアップが簡便な本手法により,従来法では困難だった加温を用いる系や他の電解プロセスの解析にも取り組む。また,大規模計算機の活用により流体解析と電流分布解析を連成させることで,強制対流を含む電解セルの設計に取り組む。本研究を通して,電解プロセス分野における流体解析の活用のアップデートをねらう。

研究テーマ名

球面調和関数によるボールミル媒体形状の設計手法開発と実証

研究代表者

産業技術総合研究所 上田 高生

研究概要

選鉱等の粉砕工程では,全世界の消費エネルギーの約2% を消費している。一般的に粉砕機の効率は低く,代表的な粉砕機であるボールミルは1% 以下と言われており,粉砕効率向上が望まれている。通常ボールミルでは,球形の媒体同士又は媒体とミル内壁で対象物を挟み込むことで粉砕する。提案者は,一度の衝突でより多くの対象物を挟み込む媒体形状を設計すれば,ボールミルの粉砕効率向上が可能であると考えて研究を進めてきた。フーリエ級数の3 次元版に相当する球面調和関数の組み合わせにより,様々な3 次元形状を生成し,その接触状況を解析することで,楕円体を軽くつぶしたような歪な形状(開発形状)を見出した。開発形状の媒体を作成してボールミル実験を行ったところ,粉砕効率が球形媒体より約10% 向上することを確認した。これは想定を上回る向上率であり,そのメカニズムは解明されていない。本プロジェクトでは,形状に係る静的解析に加えて個別要素法を用いた動的解析を行い,開発形状の粉砕効率向上のメカニズムを明らかにする。また,その知見を基に,より高効率かつ様々なボールミル操業条件にフィットした媒体形状の設計手法を開発し,有効性を実証する。

研究テーマ名

「固体王水」の水平展開によるレアメタルの新規リサイクル手法の開発

研究代表者

千葉大学 吉村 彰大

研究概要

タングステンやタンタルなどに代表されるレアメタルは,鉄や銅などのベースメタルと比較すると需要量は大幅に少ない。一方で,高い融点や強度,また誘電率など特異的な性質を持つことから,先端技術などには欠かせない素材として重要な役割を占める。また,産出地域が極端に偏在していることや,生産量自体も小さいことから,需給上のリスクが大きい素材でもある。このようなレアメタルの安定的な供給には,積極的なリサイクルが大きな役割を果たす。一方で,従来のリサイクル法は,極めて高い温度での処理や大量の薬品による溶解など,環境負荷やコスト面での課題が多く存在する。そこで本研究では,研究代表者がこれまでに開発してきた「固体王水」を応用する。この固体王水は塩化鉄(III)を主体とする複合溶融塩のことを指し,500˚C 未満で溶融塩化すること,また塩化鉄が極めて強い塩化能を持つことから,従来のプロセスよりも大幅に低い温度,かつ穏和な条件での直接的な処理が可能となる。これまでに,処理が難しいとされる様々な白金族金属(PGMs)への適用が確認されており,本研究ではこれをレアメタルの処理に応用する。主な対象としては先述したタングステンやタンタルを想定しており,特に溶解しづらいとされるこれらの元素の溶解,および回収について手法を確立する。さらにこれらの元素を利用する製品のスクラップについても処理することで,既存のリサイクル手法に対してコストや環境負荷が大幅に小さい手法を確立する。